【災害対策】災害、緊急時の無線機の利用


こんにちは、システム担当の矢部です。
今回は、災害時の有効なツールとして「無線機」があることをお伝えしようと思います。私は高校生の時に電話級アマチュア無線技師を取得し、高校の無線設備を使用して世界と通信ができる魅力にはまりました。その後、通信の専門学校で、プロの通信士、技術士、第1級アマチュア無線技士を取得しました。無線が身近なところにあり、その利便性は常に感じていました。携帯電話の普及が進み、無線が縁遠いものになっていました。数年前、山を歩くようになって、携帯電話が使用できない状況下で自分の身を守る術を考えた時、「無線」の必要性を改めて考えました。今の無線機にはGPS機能も搭載されている機種もあり、万一遭難しても自分の居場所(位置、標高)を知ること、無線を通じて通知できる機能も付いていました。山を歩くときには携帯するようにしています。

また、311東日本大震災や熊本大地震の際、大きくニュースにはなっていませんが、アマチュア無線が大活躍したそうです。連絡や交通が寸断された地域で、アマチュア無線で救助要請を呼びかけたところ、大阪の無線局がその電波を傍受し、警察に救助要請を伝え、救助に向かえたことを知りました。熊本大震災では、病院の院長先生がアマチュア無線家で、院内にも業務用に無線機を配備していたそうです。震災が発生し、電話回線も使用できない環境下でも無線機を使用して、院内の業務を滞りなく進めることができたという記事を見ました。

万一の時に強力なツールとなる「無線機」について、私の拙い経験を踏まえてお伝えしますのでお役に立てれば幸いです。

簡易無線 KENWOOD社製 TPZ-D553MCH

簡易無線 KENWOOD社製 TPZ-D553MCH

 無線機のメリット

 一斉放送ができること

無線機の最大のメリットは、同時放送ができる点です。一人がトランシーバーで話すことで、トランシーバーに持つ一人以上の人に情報を簡単に伝えることができるという点です。電話の場合は、伝えるべき人に電話をかけて伝える必要があり、伝えるべき人が複数人いるときは何度も電話をかけて、何度も同じことを伝える必要があります。無線は一つの通話で同時に伝えることができ、時間を有効利用できること、効率化を図ることができます。

 災害に強いこと

311東日本大震災では、電話回線に通信規制がかけられ、通話が制限されました。また輪番停電により地域全体、施設が停電となり通信が利用できない、電気機器が利用できないという状況に陥ったことは記憶にも新しいところだと思います。無線は緊急的な状況下でも利用が可能で、情報を共有することができる強いツールであると言えます。

無線には

利用可能な無線機としては、アマチュア無線、簡易無線、特定小電力無線の3つが主なものになります。

アマチュア無線とは

アマチュア無線を利用するためには、アマチュア無線技士という国家資格を取得する必要があります。国家試験を受験する方法と講習会に参加し試験を受ける二つの方法があります。試験は技術と法規と問題の2部構成ですが難度は低いです。完全丸暗記という本が毎年出版されていて、この本に記載される問題を丸暗記することでほぼ合格することができます。この試験に合格すると申請によって、アマチュア無線技士の従事者免許証がもらえます。その後、アマチュア無線局として開局申請を行い、総務省から承認を得て、アマチュア無線局免許状が交付されます。免許状に記載されるコールサインを使用して利用することができます。アマチュア無線技士は階級があり、それぞれの階級で利用できる無線設備、使用できる周波数、送信できる出力が制限されています。有資格者2名以上でクラブ局として無線局を開局することができます。アマチュア無線局・4級では20ワットまでのトランシーバを使用することができます。

簡易無線とは

簡易無線は、届出のみで無線局を開局ができる仕組みです。届出及び無線機の使用するに当たり、開局申請費用と年間の電波使用料金の支払いが必要になります。使用できる無線機の出力が最大5ワット、チャンネル数は30、周波数は決められています。見通し距離では1km~5km程度が通信範囲となります。弊社お客様の施設で、1階-6階間でも問題なく通信することができます。デジタル信号を使用しているので、通信を秘話設定ができる機能を有している機器もあります。

特定小電力無線とは

よく量販店で販売されている安価な無線機になります。送信出力が0.01ワット(10ミリワット)と小さく、免許や届出が不要な無線です。スキーなどの遊びで利用するのであれば良いのでが、特に災害時、業務で使用するのであればお勧めしません。

そこで

311東日本大震災では、幸いにもインターネット環境は通信制限の対象外となり問題なく利用できたので、SNS(Twitterやブログ)が強力な情報共有ツールとなりました。今の安否確認システムでは、インターネット環境は災害の影響を受けにくいという経験から、メールやSNS(Twitter,LINE,ホームページ)を利用したものが主流となっています。今後、災害時にインターネット環境が通信制限を受けずに利用できるという保障はありません。災害時や緊急時の対策として、電話回線を利用した緊急連絡網の整備に合わせて、SNSを利用した情報共有、安否確認システムなどの複合的な対策をお勧めします。更に、あらゆる影響を受けない通信手段として、「無線機」の利用をお勧めします。

導入・申請などの手続き

実際、導入してみようと思ったとき、「アマチュア無線」は資格の取得というハードルがあります。やはり試験の難度は低いと言えども、国家資格ですのである程度の勉強は必要になります。「特定小電力無線機」は実用に耐ええませんので割愛します。「簡易無線」は届出だけで利用ができるので、一番導入しやすく業務にも使用することができます。

申請及びお手続きの方法は、総務省のホームページで公開されているほか、簡易無線の無線機を購入すると、届出の様式、説明書が同梱されていますので、説明書に従って申請書に書き込み、申請書を郵送します。その後、申請内容に問題が無ければ登録状が公布されますので、無線局として開局(利用)することができます。開局後、15日以内に使用する無線機の型番、技適番号、台数などの届出(開設届出)を提出します。

無線機の選定

無線機の機器選定について、「防水」「防塵」「落下」などの劣悪、過酷な環境でもトラブルなく使用できる機器を推奨します。周囲の環境、雨や埃、温度など環境に影響を受けず、ある程度の高さから落下させても、故障、破損することなく使い続けられる機器が一番です。それと多少重くてもバッテリーが大容量のタイプを採用してください。万一、充電ができない環境も想定できるので、可能な限り、大容量のバッテリーの使用をお勧めします。

ご参考までに KENWOOD社製 TPZ-D503 を3年使用しています。一度も故障、動作不良などは起こしていません。 今回、医療機関様から災害対策用としてご導入の依頼を頂き、後継機の KENWOOD社製 TPZ-D553MCH を 10台 導入することになりました。

防水・防塵・落下性能

弊社が使用している KENWOOD社製 TPZ-D503 は、アメリカ国防総省・軍用規格MIL-STD-810 C、D、E、F、Gの12項目に適合した優れた耐久性と、防塵・防水性能「IP54 /55 /67」に対応しています。水没、落下は数知れず、厳冬期(-15℃前後)の山でも使用しますが問題なく利用することができます。

MIL-STD-810 の規格では以下の試験を行っています。

温度試験 ・動作温度: -20°C ~ 60°C ・非動作時: -30°C ~70°C
温度衝撃試験 ・急激な温度変化に耐えることができること
湿度試験 ・暖かく高湿度な環境に耐えることができること
衝撃試験 ・衝撃に対して耐えることができること
落下試験 ・鉄に1.52mから26回落下に耐えることができること
振動試験 ・振動に対して耐えることができるこ

防塵・防水性能「IP54 /55 /67」では以下の試験を行っています。

第1記号(人体及び固形異物に対する保護等級)
IP5_ 防塵形 粉塵が内部に侵入することを防止する。若干の粉塵の侵入があっても正常な運転を阻害しない。
IP6_ 防塵形 粉塵が内部に侵入しない。
第2記号(水の浸入に対する保護等級)
IP_4 飛沫に対する保護 いかなる方向の水の飛沫によっても有害な影響を受けない。
IP_5 噴流水に対する保護 いかなる方向の水の直接噴流によっても有害な影響を受けない。
IP_6 水没に対する保護 規定の圧力、時間で水中に浸漬しても有害な影響を受けない。

無線機の使い方・工夫

無線機にはベルトクリップが標準装備されていますが、無線機を操作する場合、片手で顔近くに無線機を持ってきて、話す、聞くという操作が必要となります。作業をしながら無線機を操作することが困難な場合、オプションのスピーカーマイクロホンを購入するという方法もあります。船上では航海士がとても便利は方法で無線機を使用していましたので応用編をお伝えします。

準備

  • 100円ショップで、首にかけるタイプのストラップを購入します。
  • 無線機のストラップ用の穴に購入したストラップを通します。これで準備は完了です。

使用方法

  • ストラップの紐の輪に右腕を通し、ストラップの紐を脇のほうに移動させます。(左利きの方は逆が良いかもしれません)
  • ストラップの紐を首の後ろを通して、無線機を左肩(鎖骨の上)に置きます。これだけです。

無線機が耳の横にあり、音も良く聞こえます。送信するときは片手で送信ボタンを押して、無線機に向かって話します。送信するとき以外は両手は自由に使うことができます。首からぶら下げる方法もありますが、首回りが結構痛くなります。弊社スタッフは作業着の胸ポケットに無線機をしまい、操作するときはポケットから出しています。

最後に

不測の事態を想定し、準備、対策を講じておくことは大切なことです。今回、お伝えした無線機にしても1台、3万円以上はしますので、各部署や主要な職員に配備することを考えると相当な台数、費用を要します。いつ起きるか判らないことに高額な費用を投じることは考えてしまいます。しかし、その施設が持つ役割や業務内容によっては人命に関わるものだとすれば大切な投資のようにも思います。災害時の対策など、弊社の拙いHowToですがご参考になれば幸いです。弊社では無線機の導入支援のほか、安否確認システムについても取り扱っていますので、お声がけを頂けると幸いです。